ささやかだけれど、大きなこと。/監督 下田彦太 【天狗の台所 Season2 スタッフnote #3】
さて、「天狗の台所 Season2」、第3話が公開されました。
ご覧いただいた皆さん、いかがでしたか?
ドラマで自分が担当した回の感想はいつも気になるものですが、(Xの「#天狗の台所」のハッシュタグ、いつも見てます!みなさんありがとうございます。) 実はこの回の感想がどんなものかは、いつも以上に気になっています。
だって、本当に…ずーーっと、淡々と、基とオンの隠遁村での生活が描かれている、ただそれだけ(ではないけど、ほとんどそう)のお話だから。
でも、それがいい。
それが好き。
テレビドラマの常識の中にあっては、ささやかながらも、とてもラディカルな内容だったのではないかと思っています。
私自身、お気に入りの回のひとつです。
脚本は、私の所属事務所の仲間でもあるナラミハルさん。
「天狗の台所」の制作チームでは、早い段階からプロデユーサー、脚本家、ディレクターがZoomで集まり、ああでもないこうでもないと意見を出し合って物語を組み立てていきます。
Season2からは原作から離陸したオリジナルストーリーになっていることもあり、その作業は前回を超える密度で行われました。
1話からはっきりと示されていた通り、Season2の各話に通底するテーマの一つは、「生活と労働」です。
基は普段どうやって生活しているのか?
オンは帰りの旅費をどうやって「稼ぐ」のか?
そうした生々しい話は、フィクションの中では概してうやむやにされてしまうものですが、本作ではそこにも焦点を当てています。
特に3話でクローズアップされるのは、基が日々行っている「名もなき労働」について。
3話の肉付けの段階で、そうしたキーワードを提案してくれたのは、Season2のチーフ作家でもある岨手由貴子さんでした。
「名もなき労働」とは、家庭内などでのケアワークを担う人が日常的に行う、当人以外には顧みられてこなかった「小さな家事労働」のことを指します。
具体的には、ちょっとした掃除、ゴミ捨て、片付け、買い置き、補修…などなど。
近年、フェミニズムの文脈で取り上げられることが多くなったキーワードです。
飯綱家において、それを担うのは基です。
基は、料理だけでなく生活の全般において、庵の内外での「名もなき労働」を、当たり前のこととして行なっています。
そして、そのことが基とその周囲に暮らす人たちの支えとなり、隠遁村に良い循環を生んでいる。
私自身、脚本が出来上がっていく過程にチームの一人として参加していて、とてもすばらしいテーマだなと感じていました。
しかし、問題はそこからです。
そうした「名もなき」ことを、どうやって演出し、映像に残すのか?
撮影が迫り、監督としてこの脚本に向き合うと、それはとても難しいテーマでもありました。
脚本に描かれていなくとも、ドラマに必要なシーンを現場で膨らませるのは監督の役目。
それを十全に全うできたか?と問われれば……
きっと、基が普段行っている「名もなき労働」は無数にあるはず。
もっと描けたことはあったのではないか?と、今こうして3話を振り返っていても考えてしまいます。
しかし、今回の撮影では、豊かな自然と天候が、そんな私の未熟さを少なからず助けてくれました。
たとえば、基とオンが、2人で歩く森の景色。
その美しい日差し。
代々、天狗の末裔を変わらず見守ってくれていたのであろう、自然の姿。
基が当たり前のように繰り返す「自分ができること」は、周囲の人々を支えるだけでなく、自然との共生・循環にまでもつながっている…ということを、基とオンを包む自然そのものの姿が雄弁に物語ってくれました。
生活のごく小さな「名もなき労働」から始まる、大きなスケールの自然観のようなもの…の、ほんの少しの片鱗だけ…ですが、3話の中で感じていただくことができたのなら、こんなに嬉しいことはありません。
そして、そんな物語を違和感なく受け止めてくれる原作の世界観の懐の深さに、あらためて驚かされるばかりです。
(田中先生、ありがとうございます!)
さて、最後に少し料理のお話を。
3話で登場する料理は、旬のスイカで作った「スイカバー」(!)と、おばあちゃんにいただいた鶏肉で作った「ジャークチキン」(!!)です。
旬の食材を使って、ちょっと飛躍のある料理を作るのは、伝統食だけにとらわれない、好奇心の強い基ならではですね。
実はこのジャークチキンは自分でも作ってみたのですが、本当にとても美味しかった!!
本場のレシピではもっと青ネギを効かすそうですが、それを玉ねぎで代用しているのは、苦いのが嫌いそうなオンへの気遣いからでしょうね。
物語の内容も、撮影時の出来事も、いろんな人たちの思いやりと幸運に支えられた、思い出深い現場となりました。
この場を借りて、チームの方々と、応援していただいている皆様に深く御礼申し上げます。
本当にありがとうございました。
さて、私の担当回はここまでです。
次回4話は川井監督の担当回。
2話と3話でゆ〜〜っくりと描かれた基とオンの生活にも、少しずつ変化が訪れます。
ここから最終話までは、いち視聴者として、新しい基とオン、そして有意の物語を楽しみたいと思っています。
次回もお楽しみに!
書いた人:下田彦太(映像ディレクター/演出家/脚本家)
火曜ドラマ9「天狗の台所 Season2」
BS-TBS 毎週(火)よる9:00~9:30
【TVer】放送終了後 よる9:30から配信
【Netflix】放送終了後 深夜0:00から配信
出演:駒木根葵汰 塩野瑛久 越山敬達 ほか
原作:田中相『天狗の台所』(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
主題歌:「人人」折坂悠太(ORISAKAYUTA)
音楽 : VaVa(SUMMIT, Inc.)
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