心開きの日暮れ/監督 川井隼人【天狗の台所 Season2 スタッフnote #4】
第4話「果実とパスタ」監督の川井です。
皆様、ご視聴ありがとうございました。
楽しんで頂けましたでしょうか?
冒頭の抜けるような晴天の日に、ひさしぶりに飯綱家にやって来て顔馴染みのスタッフが準備をしている姿を見て、思わず「ただいま」と言ってしまったほど、ここに帰って来れたことがとても嬉しかったです。
玄関の扉を開けると何もかもがそのままで、ここが美術部の手によって改めて作られた場所だということを忘れてしまう程に、すごく自然に再現されていました。
本当に居心地の良い大好きな場所です。
それは主演の飯綱基役の駒木根葵汰さんに再会した時にも改めて思いました。
基があの佇まいで何も変わらず、ただそこに凛としているだけで、この家で実際に生活しているように感じられました。
そして飯綱オン役の越山敬達くんは、びっくりするぐらい大きく成長していました。
約一年という歳月ってこんなに変化するものなのですね。
居間で基から腰のマッサージを受けている際の「兄ちゃんも辛いのにごめんね」と言う可愛らしさはありつつ、腰が辛そうな基を心配している優しい眼差しや「ねぇ!」とかけた声が妙に大人っぽくなっていて、子供でも大人でもない、今しか見ることの出来ないオンの姿はとても魅力的でした。
第4話の脚本を担当して頂いた熊本浩武さんの脚本でこのシーンは「ペアストレッチ的な体勢になっている」と書いてあり、事前に調べておいたストレッチを駒木根さんと越山くんと相談して幾つかやってみたものの、どうにも普通になってしまうなぁと思いながら段取りを終えました。
カメラのセッティングをしている時に、もう少し何か出来ないか考えていると、自分の想像より体が大きくなっていたオンが、基に乗りかかるようなストレッチの体勢が面白いのかも?と思いつき、あの形になりました。
基の珍しい表情、いいですよね。
弟の優しさを全身で受け止める兄の顔。
愛宕有意役の塩野瑛久さんが入って来て唖然とする天狗の兄弟カットも最高です(笑)。
「天狗の台所」の撮影では、生活している風景をそのまま見ているようなアングルや空気感で撮影することを心がけていたので、その場にいるような距離感、見え方が視聴者の皆さんに伝わると良いなと思っていました。
塩野さんは役柄同様に連日忙しいスケジュールの合間での撮影だったので、内容的にもすごくリンクしていて、表情や台詞のニュアンスがとても繊細で良かったです。
三人が居間で話をしているだけでも嬉しくてずっと見てしまいます。
基が生まれて初めて言ったであろう「バカンス」という言葉のぎこちなさや、有意に何かしてあげたいという気持ち、その不器用な兄の姿に気づくオンのニヤリとした顔、それぞれが愛しくてたまらないです。
有意がオンにじゃれる最後の動きはアドリブでやってもらったのですが、ずっと見ていたくて全然カットをかけられなかったです(笑)
今回のバカンス回では美術の及川幸恵さんから「監督、これ」とスッと紙を一枚渡されたのですが、私が相談する前に最高のプランがすでに考えてありました。
これを見て私は大笑いしてしまって「もうこれでいきましょう!」と即決でした。
小豆で波の音を演出している基は完全に及川さんのアイデアです。
先代・飯綱式子のワインラベルなど細かい部分も抜かりなく、手作りバカンスの美術は原作大ファンの及川さんの熱量が生み出してくれた素敵なお仕事でした。
真ん中でじっとしているむぎ(スピカ)もとても可愛らしく、有意に「また余計なこと言ったな?」と言われてそっぽを向くリアクションは、現場でみんなから拍手が起きたぐらいナイスリアクションでした。
オンの顔まわりにキラキラと反射する光も完全に偶然の産物なのですが、天気も含めてこういう環境で自然に身を委ねて撮れるカットもあるんだな、と天狗の台所の撮影をしているとよく思います。
こういう自分だけでは想像も出来なかったようなことを、各部署の提案やその日の現場で起きることをキャスト、スタッフ全員で捕まえるようなことが楽しくて、この仕事を続けているのだと実感します。
第4話で個人的に一番好きなのが、この居間のシーンです。
ここは「PCを開いて仕事している有意とその横で昼寝しているオン。そこへやってくる基」と書かれていたので、どうやって撮ろうかと考えた時に、自分の記憶にある夏休みの遊び疲れた午後に、昼寝して母親の料理する音がぼんやり聞こえるぐらいのうたた寝している、あの何とも言えない幸せな空気感で撮ってみたいなぁとぼんやり思いました。
いつもは土間から居間向けのカットをメインに構成するのを、日暮れの薄暗い感じにしたくて逆方向に構えてもらって、基には扇風機を点けたまま寝ているオンを見て、タオルケットをかけて扇風機を止めて欲しいことぐらいは伝えましたが、お芝居の段取りで塩野さんと駒木根さんのお芝居を確認した時に「これは……」とピタッとハマるというか、何かお互いに感じたものがあって、特に直すべきところがなく、すぐにその空気感のまま撮影していきました。
それはスタッフも同じように感じていたようで、撮影カメラマンの吉原輝久さんも「撮っていて鳥肌が立った」と言っていたほど、塩野さんと有意がシンクロしていたように思います。(後日、Xで塩野さんもその事を書かれていて妙に納得しました。)
それを受ける基の表情も素晴らしくて、このシーンで流れているVaVaさんの劇伴が『心開き』というタイトルなのですが、本当に二人の心情を解き放つような美しい曲で、お互いの悩みを理解し合う姿が自分の想像を遥かに超えた印象的なシーンになりました。
また、裏話でひとつ付け加えておきたいのが、この長いシーンを撮影している時に、最後に起きて台詞を言うオンが本当に寝てしまっていた事です(笑)。
駒木根さんも塩野さんも笑って起こしてあげて、スタッフもみんな大笑いしていましたが、モニターを見ていた私は、こんなにも心地良い時間と空気が流れる中で、リラックスして本番中に寝ることが出来る現場って素敵だなぁと思いました。
オンの起きてからの「お腹空いちゃった」の言い方は流石の一言でした(100点!)。
「やりたいからこそ、難しくってさ」
ドラマを作っていると有意のこのセリフがいつも頭の中に浮かびます。
忙しい日々の中で、折坂悠太さんの『人人』が流れる料理シーンを見ながら、誰よりも癒されていたのは監督の私だったのかも知れません。
基やオン、有意の姿を見て、美味しい食事を大切な人と一緒に食べるというありふれた日常が、如何に尊いものなのかを教えてもらったような気がします。
物語はいよいよ折り返しの第5話に入っていきます。
来週は魅力的な新キャラクターたちが登場します。
食事やお酒を飲みながら、のんびりと楽しんで頂けると嬉しいです。
どうぞよろしくお願い致します。
書いた人:川井隼人(ディレクター/監督)https://www.instagram.com/hayato_kawai/
https://twitter.com/hayatokawai0704
火曜ドラマ9「天狗の台所 Season2」
BS-TBS 毎週(火)よる9:00~9:30
【TVer】放送終了後 よる9:30から配信
【Netflix】放送終了後 深夜0:00から配信
出演:駒木根葵汰 塩野瑛久 越山敬達 ほか
原作:田中相『天狗の台所』(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
主題歌:「人人」折坂悠太(ORISAKAYUTA)
音楽 : VaVa(SUMMIT, Inc.)
▽「天狗の台所」note記事はこちらから
▽公式ホームページ
番組公式X(旧Twitter)
https://x.com/bstbs_drama23
番組公式Instagram
https://www.instagram.com/bstbs_drama23/