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監督 長島翔のドラマ「天狗の台所」第9話バックストーリー。飯綱夫婦はなぜ息子・基と14年間会わなかったのか?

 ドラマ「天狗の台所」1話、2話、9話、最終話の演出を担当した長島翔です。
オンの背中に紋様が出たことを心配し、突然両親がやってきた9話。
基が両親に会うのは、14年ぶり。
オンも言葉を失います。
なかなか変わった家族です。

「どうして14年も会わなかったのか?」
ドラマを作る前に、そこを理解する必要があり、原作の田中相さんから背景を伺い、ドラマ上の設定として、脚本チームやプロデューサーらと膨らませていき、自分なりに解釈していきました。
 
母・一乃は、しがらみの多い天狗の世界や田舎暮らしを好まず、10代で渡米。
ニューヨークの大学で勉学に励み、弁護士となり、バリバリ働いてきたそうです。
料理や農作業に打ち込む式子(先代)や基とは違いますが、芯があって、自分の力でなんとかしてしまうところは、式子の娘であり、基の母という感じがします。
一方で、個人主義のリアリストゆえか、時にその言動は、ぶっきらぼうで、無配慮にも見えますし、14年ぶりに会った息子、基との距離感を測りあぐねているようにも見えます。

父・エリスは、日系アメリカ人。
留学中の一乃と出会い、若くして結婚。彼女の秘書として、公私ともに支えてきたそうです。
基の田舎暮らしに興味を持ちながらも、これまで何をするにも一乃の意志を最優先にしてきたことが伺えます。

 夫婦ともに、子供たちへの愛情は当然持ちつつも、ニューヨークで生きていくだけで精一杯、なおかつアメリカ的な個人主義もあってか、日本で暮らすという基の選択も尊重されてきたのだろうと思います。
そんな夫婦の姿を、渡辺真起子さんは自由闊達に、原田泰造さんは温かく包み込むように演じてくれました。 

一方の長男・基。
食いしん坊の基にとっては、一年中、何かの旬。
種を植え、苗を育て、万物の声に耳を傾けながら世話をして、実れば収穫。
それから調理、時には加工まで。
これをあらゆる作物に対して繰り返していたら、村を離れる余裕なんてなかったのでしょう。
いつも頭の中は食べ物のことでいっぱい。
それはあの使い込まれた台所や、調理の手際からも分かります。
(駒木根葵汰くんの包丁さばきは我々の想像を超えるもので、基というキャラクターに予想以上の説得力を与えてくれました。)

こうして飯綱家について考えていくと、きっと意図して会わなかったわけではなく、ただ日々の暮らしや目の前のことに没頭していたら、14年が経過していたということなのではないかと思います。
やっぱり(愛すべき)少し変わった家族です。
 
そんな飯綱家の次男、オンを演じたのは、役柄と同じく14歳の越山敬達くん。
161名のオーディションから役を勝ち取りました。
 
と聞くと、ものすごい熱演だった感じがしますが、オーディションでの越山くんは、少しだるそうで、生意気そうで、なんなら機嫌も悪そうだったのですが、体温の低い芝居や、儚げな横顔がイメージと重なりました。
そして何より、剥き出しの14歳という感じがして、即決にいたりました。
 
そんな彼のトーンと、作品全体のトーンを調和させながら、ドラマ「天狗の台所」は作られていきました。

次回は、いよいよ最終話。
一年間の隠遁生活が終わります。
最後に、オンはどんな決断をするのか。
9話では出番のなかった有意も登場します。
3人の勇姿をお見逃しなく。

書いた人:長島翔(監督)
https://instagram.com/sho_nagashima

木曜ドラマ23「天狗の台所」
BS-TBS 毎週(木)よる11:00~11:30
【TVer】無料配信は放送翌日の正午から
【U-NEXT】【Lemino】【Amazonプライムビデオ】【Hulu】でも配信中

出演:駒木根葵汰 塩野瑛久 越山敬達 / 白鳥晴郎 市村優汰 村山輝星 / 浅茅陽子 本田博太郎 角田晃広(東京03)〔声の出演〕 渡辺真起子 / 原田泰造
原作:田中相『天狗の台所』(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
主題歌:「人人」折坂悠太(ORISAKAYUTA)

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