監督 川井隼人のドラマ「天狗の台所」第8話バックストーリー。花札シーンは謎の大喜利アドリブタイムに!
ドラマ「天狗の台所」をご覧の皆さま、はじめまして。
第4話「枝豆とトウモロコシ」第8話「塩鮭と春野菜」の演出を担当させて頂きました、監督兼チーフ助監督の川井隼人と申します。
今回は現場に誰よりも長くいた私がバックストーリーをお伝えしていこうと思います。
クランクインした第1話の撮影の頃はとにかく緊張していたオン役の越山敬達くんも、第8話の撮影の頃になるとだいぶリラックスして現場に参加出来るようになっていました。
冒頭のシーンで元旦に塩野瑛久さん演じる有意に起こされるところは、本当に演技なのか?というぐらい寝ぼけている姿がとても自然でしたね。(笑)
現場のスタンバイ中に越山くんがウトウトしてしまうのをみんなが愛しく見ていたり、いろんなスタッフから「オンくん、やるよ!」とイジられながら起こされているキャストとスタッフの距離感がとても良いなぁと感じていました。
今回の撮影現場は、原作者の田中相先生が描く緩やかでのんびりとした田舎の丁寧な暮らしをドラマで再現するために、チーフ演出の長島監督と相談をして“参加する全員が楽しめるような心地良い現場作り”を目指していたので、映像にもその空気感はしっかり出ているのではないかと思います。
それを象徴するような出来事があったのが「花札」のシーンです。
越山くんは塩野さんがいるとスタンバイ中も楽しそうにずっと話しかけているのですが、塩野さんはそれに笑顔で対応しつつ、撮影初日で緊張気味の珠緒役の村山輝星ちゃんがリラックス出来るように気さくに話しかけて、自然に基役の駒木根葵汰さんにも話を振って会話に参加させたり、あの現場の空気感を作り出してくれたのは常にまわりに気を配ることに出来る塩野さん=有意のキャラクターそのものなんですよね。
塩野さんの懐の広さに監督の私も甘えさせて頂き、脚本では「……また五光だ」というクールなリアクションに一同唖然とする内容だったのですが、お芝居を確認していく中で越山くんが「これってすごいの?」とアドリブで聞いてくれたところから塩野さんが「◯◯ぐらいすごいよ」という“上手い例えの返し”が回を重ねるごとに面白くなって来てしまい、謎の大喜利アドリブタイムが急遽始まりました。(笑)
テストでもスタッフにかなりウケた回答をしてくれたのですが、「本番ではもっといいの出ますよね?」とハードルを上げる私。
「うわ〜やるんじゃなかった〜」と焦り出す塩野さんの珍しく動揺する姿が見れてスタッフもさらに大盛り上がり。(笑)
そして本番で捻り出してくれたのが、ドラマで使ったあのセリフなのです!
本番中なのでスタッフが笑いを堪えるなか、基のあの冷たく見るだけのノーリアクション!!
私はモニターを見ながら爆笑して、涙を拭きながらガッツポーズしてました!!!
本当に最高の天狗コンビ芸を見せてもらいました。
そんな和やかな現場に第8話から登場した珠緒を演じる輝星ちゃんですが、登場シーンからいきなり怒っている難しいお芝居に対して、自分のプランをしっかりと練り上げて来てくれて、とても魅力的なキャラクターとして演じてくれました。
その中でも特に印象的だったのが、庭でむぎに再会して言葉がわからなくなってしまったことに気づく切ない場面です。
むぎ役のスピカは初対面の人にはとにかく嬉しくてはしゃいでしまうので、玄関から出てきて珠緒が近づくと庭中を駆け回り始めてしまいます。
ここは大切なシーンなので丁寧に撮影したいものの、なかなか落ち着くことが出来なかったスピカ。
ですが、輝星ちゃんが話しかける直前に小さいおやつをあげて、自然にお芝居を続けるという超絶ファインプレーをしてくれました!
一度ご覧になった方も、ぜひ見返してみてください!!
そして、第8話で一番悩んだのが、オンが基に羽が生えた時のことを土間に聞きに来るところです。
このシーンで基が自分の心情を話すカットがあるのですが、現場のモニターで見ている時に感動してグッときました。
それは天狗の末裔であり、羽の生えた人間にしかわからない複雑な思いを抱えている基のキャラクターと駒木根さんの姿が重なったからです。
駒木根さんは、どんなに厳しいスケジュールでも一切辛そうな顔を見せずに、現場で弱音や愚痴を吐くようなことはありませんでした。
キャスト、スタッフ誰にでも同じように常に明るく接してくれて、毎朝毎晩、笑顔でひとりひとりに挨拶してくれる姿は本当に素晴らしかったです。
決して多くは語らないけれど、現場に真摯に臨む態度や姿勢でこのドラマを引っ張ってくれた駒木根さんと基の姿が自分には重なって見えたんだと思います。
そんな複雑な思いを込めたこのカットは、個人的にはこれぐらいの暗さで表現したいと思っていたのですが、通常のドラマでは表情が見えづらいのでなかなかやることの出来ない表現だと思います。
視聴者の方々にもこれが伝わるのかとても悩みましたが、それでも現場スタッフや仕上げスタッフが悩む自分の背中を押してくれて、あのカットを使うことが出来ました。
自分の想像を超えた素敵なシーンになったと思います。
最後のエンドロールには現場見習いの子や宣伝に関わる方まですべて載っています。
それぐらい誰一人欠けることの出来ない全員でやり切ったドラマです。
この作品に関わった全員の仕事が、見てくれた方の心にしっかりと届いているのであれば、監督のひとりとして参加させて頂いた自分としてはとても嬉しいです。
ドラマはいよいよ残すところ、あと2話となりました。
ここからは私もイチ視聴者として楽しみたいと思います!
「天狗の台所」引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
書いた人:川井隼人(ディレクター/監督)https://www.instagram.com/hayato_kawai/
木曜ドラマ23「天狗の台所」
BS-TBS 毎週(木)よる11:00~11:30
【TVer】無料配信は放送翌日の正午から
【U-NEXT】【Lemino】【Amazonプライムビデオ】【Hulu】でも配信中
出演:駒木根葵汰 塩野瑛久 越山敬達 / 白鳥晴郎 市村優汰 村山輝星 / 浅茅陽子 本田博太郎 角田晃広(東京03)〔声の出演〕 渡辺真起子 / 原田泰造
原作:田中相『天狗の台所』(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
主題歌:「人人」折坂悠太(ORISAKAYUTA)
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